『スクールアタック・シンドローム 』 舞城 王太郎


SA杓爪朧ム.jpgスクールアタック・シンドローム  舞城 王太郎 (新潮文庫)¥420  評価…★★★★☆ <内容紹介> 俺は今ソファに沈み込んで日々を送っている。仕事もせず、家事もせず、一日中酒を飲みながらDVDを見ている。妻は実家に帰ってしまったが俺の生活は変わらない。 しかし、ある日、知らない大男が家に侵入してきたので耳を食いちぎり撃退して勢い余ってその耳を食ってしまったのをきっかけに、俺はちょっと反省して動き始める。 そんな時、元妻から崇史の様子がおかしいと連絡がある。崇史は俺が15のときの子供で俺は今ちょうど崇史の倍の歳だ。 崇史と話してみると、彼は「殺すノート」とやらを作っていて、どうもそれは600人以上の死者を出したという福井県の男子高校生3人による高校襲撃事件の影響らしい。半年以上ソファと蜜月生活を送っていた俺は知らなかったが、凄い事件で全国でこれに影響された襲撃事件的なものが続発しているらしい。そういえば俺を襲った男とその後に起こったこともそれに関連するのかもしれない。どうやら暴力は伝染し、伝達するらしい。(表題作) 他、『我が家のトトロ』(ある日、娘の千秋が我が家の飼い猫レスカはトトロだと言い出す。)と書き下ろしの『ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート』(同級生の杣理亜は何故か人に攻撃衝動を起こさせるように生まれついており、父を失った2歳の時から母を始めとする親戚一同に苛められ、叔父からは酷い性的虐待を受けていた。もちろん彼女は学校でも苛められていたが、長年の被虐経験から逸らす術を身に着けたため大したものではなかった。しかし、それが変わるときが来る)の全3篇を収録。
これはすっごい面白かった!前作(『みんな元気』)を読んで、どうしようと思ってたけど安心しました^^; でも、今回の帯は感心しないな。いや、悪くはないんだけど。過剰でも誇大でもないし(「ダーク&ポップ」はちょっと?だけど)スタイリッシュだよ。でも、今までの「上手い!」って感じじゃないので残念。それと、表紙も違うなぁって感じ。親本は同じなんだし、『みんな元気』とテイスト合わせた方が良かったと思うけどなぁ。 で、内容。以前から漠然と思ってはいたんだけど本書で明確になった。舞城作品の根底に流れるのは愛だね。愛だよ愛。(って、これ何のコピーだっけ?歳がバレるネタなのはわかるが) 『トトロ』 はともかく、表題作は暴力とかダークな描写に満ちてるし、『ソマリア~』 に至ってはもうほんとに全くひどい話なんですが、読後感じるのは不思議と暖かな想いなんですよ。 『トトロ』 はほんとにわかりやすく全篇愛に満ち溢れてます。暴力だの犯罪だのセックスだのダークな感じの描写を重ねて、それでも読後に残るのはほのぼのとした感じと愛って凄いよなぁ。 個人的には表題作の高校襲撃事件関連は相当興味深いけど、問題とされてるのはそこじゃないのよね。でも、そこらへんの描写も面白いです。あと、『ソマリア~』は見るもの全てに攻撃され、しかも身内により激しく攻撃されるという設定に加えて、殺されても何だかわからないけど蘇ってしまう(破壊された肉体が復活されるわけでなく、それは消滅してどこからか新しい肉体がやってくる。しかも、その復活場所は死体がある場所とかに全く関わりなし)という設定が物凄いですね。他にも色々物凄いですけど。凄く悲惨な話を書いているのに不思議と全くそう思えないのは、凄いところが多すぎるからか? もうひとつ今回しみじみ思ったのが、舞城作品は何か心に残る表現があるんですね。自分が漠然と思ってたことを明確に言葉にしてくれたような快感というか、そういう感じのする文章がよくある。今回は以下の三つ。 面白い小説は、面白い小説ですよ。読むのがやめられない小説ですよ。とにかく最後まで読ませられちゃう小説。読んだら人を救えるような小説とか、誰かを救いたくなる小説とか、何かを誰かに教えたくなる小説とか、そんなんはどうでもいいんですよ。 (『我が家のトトロ』より。主人公の妻に横恋慕しつつ、作家を目指して広告代理店をやめた濱田淳のセリフ) 僕たち日本人は、「美しい」という言葉を、ある厳かさを湛えさせるため以外には、あるいはあるおかしみを漂わせるためというまれな場合以外には、使わない。 (同じく『トトロ』より主人公が飼い猫レスカを評する前の説明) つまり友情も愛情も、大部分は振る舞いとか作法なのだ。 (『ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート』より。杣理亜を殺した智春が、彼女が生き返ったと聞いて友達になると言い出し、主人公と共に杣理亜と会見したときの様子を見ての彼の述懐) 細かいとこではもっとあるんですけど、おお、これは!と思ったのがこの三つ。 色んな要素から考えるととてもそうは思えないんだけど、舞城氏とは感性が合うのかなぁと思ったりした。 しかし、このところの舞城王太郎伊坂幸太郎の文庫発売ラッシュはどうしたことだ。この新潮の2冊は元は1冊だった親本を分冊してるから仕方ないにしても、異なる出版社からもばんばん出てるし。文庫になるのは嬉しいけど、一冊を時間かけて大切に味わいたいから、もっといい具合にずらして出して欲しいわ…(T_T)