『 サーカスの息子 』 ジョン・アーヴィング

サーカスの息子〈上〉 (新潮文庫)

サーカスの息子〈上〉 (新潮文庫) ¥900  
  サーカスの息子〈下〉 (新潮文庫) ¥940 
  ジョン・アーヴィング/訳=岸本 佐知子

評価…★★★★☆

<作品紹介>
カナダ在住の医師ファルークは、サーカスの小人の遺伝子を研究するために、時々故郷のボンベイに戻る。そんな彼には、息子同然の俳優ジョン・Dが主演する人気インド映画、「 ダー警部 」シリーズの覆面脚本家という顔もあった。昨今続発する映画を真似た娼婦殺人事件と、20年前遭遇した殺人との類似に気づいた彼は――。インドを舞台に奇想天外な物語が絡み合う、巨匠異色の大長編。 ( 文庫裏表紙紹介文 )



非常に面白いのですが、少々話を詰め込み過ぎな感じかな…。しかも、ほとんどの題材が扇情的過ぎる気がする。いや、本来の私だと大好きな題材たちなんですけど、アーヴィングにはあんまりこういうの求めてないというか。
そして、舞台も主要登場人物もアメリカとは全く関わりのない人々であるせいか、通常のアーヴィング作品とはちょっと違う感じです。



※以下ネタバレ有り※

小人やその他のフリークスを抱えるインドのサーカスの世界、ボンベイにおける連続猟奇殺人事件、インド映画界のスターと彼に対する宗教的、民族的反感、男性から性転換した美しい女性、下層階級で暮らす子供達の生活とその問題( 小児売春、虐待、貧困等による奇形や病気etc )、キリスト、ゾロアスターヒンドゥー等の各宗教に関わる問題、同性愛……と本作に描かれる主な題材を思いつくまま挙げていっただけで、もうこんなに(*_*)  しかも、実際にはまだまだ様々な話が書き込まれています…。
場面展開も結構唐突だったりして、ぼんやりしてると話に追いつけなくなることもあるのですが、まぁ、リーダビリティは非常に高いですね。そして満足度も高い。今までアーヴィング作品を読んだことのない方にも結構おすすめかも。
あ、でも、今列挙した題材に興味を持てる人に限り、ですけどね^^; 
小説におけるテーマとかを気にせず、ああいう扇情的だったり奇抜だったりの濃いネタを目当てにエンタメ感覚で読んでも結構楽しめるんじゃないかと思います^^;

本作の場合は長さも長さだし、題材も前述の通り膨大でしかも濃い内容なので、いちいち説明とか感想を書くのはやめておきますが、この長大で複雑な物語の全てはエピローグに集約されているような気がしないでもないです。 つまり、これは自分の居場所を探す人々の話…というとちょっとまとめ過ぎかな? f^_^;)

インド生まれで欧州で学び、現在はカナダで生活に拠点を置き、時折インドに滞在するファルークの、完全に欧州文化に馴染んでいるし、並の欧州人以上の知性も財力も社会的地位もあるのに、明らかにアジア系統の容貌をしているが故に感じる ( そして時には強制的に感じさせられる )違和感や疎外感というのは、我々の思うそれとは大きく異なっているとは思うけど、マーティンやダー、そして、ナンシーや恐らくはラフルも、本質的には 「 自分はここにいていいのだろうか? ここにいるべきなのだろうか? 」 というような問いを意識的に或いは無意識的に感じている人々だと思うのですよね。
そして、それに対して、そんなことを考えもせず、日々を肯定しているヴィノド一家や、ガネーシャ、マドゥ、ミスター・ガルグたちがいて。あ、マーティンとダーの外道母もこっちだな、きっと。ちょっと種類違うけど。

……などと、まとめておいて何ですけど、私は小説をこんな風にテーマで解釈することには何の意味もないと思っていますf(^_^;) 
特に本作においては、大筋やサイドストーリーにはもちろん、小さな話にも全て意味や面白さはあるし、そのそれぞれを読者各自が解釈し、楽しんだり、考え込んだりすれば良いと思います。私は意味とか価値とかを求めて読書をしていないので、ほんとに全く後に残らない作品であっても読んでる時に面白ければよいのですが、こういう浅くも深くも読める作品というのは好きですね^^