『介護入門』 モブ・ノリオ [*読書記録:その他の小説][*著者名:ま行]


介護入門 (文春文庫)

◆ 介護入門 (文春文庫) モブ・ノリオ  ¥450


評価…★★☆☆☆

<内容紹介>
29歳、無職の<俺>。マリファナに耽溺しながら、寝たきりの祖母を自宅で介護する日々。<悟っては迷う魂の俺から朋輩へ>放たれる熱狂と呪詛。新しい饒舌文体でセンセーションを巻き起こした、モブ・ノリオのデビュー作にして芥川賞受賞作。
単行本未収録の短篇「市町村合併協議会」「既知との遭遇」も収録。

( 文庫裏紹介文より )

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本書を購入した理由は 「 これはもうラップではあるまい。読者への呪言だ。 ─── 筒井康隆 という帯です。これに尽きます。解説も筒井さんが書いてるし。

で、結果を先に言ってしまえば、また例によってだまされたんですけど、まぁ、読む価値は一応あったかなぁと思います。 





※以下は偏向した本読みの戯言ですので、色々と不適切な発言等あるかと思いますが、マジメに文学に取り組んでるような方は気にしないで下さいませ m(_ _)m


「 ラップ 」と「 マリファナ 」と「 介護 」という取り合わせで何となくセンセーショナルな感じを醸し出している表題なんですが、あらすじだけ言っちゃうと、
「 いいとこのボンボンで30目前にして金髪でミュージシャン志望のニートな俺が、子供のときから同居していて大好きなおばあちゃんが事故で死の淵をさまよったことをきっかけに家族愛に目覚め、母と一緒に祖母の自宅介護に取り組む。その経歴や風貌から受ける周囲からの誤解や、旧家ならではの親類との軋轢、そして介護自体の困難さに怒りを覚えたり涙を流したりしながらも、母と祖母と俺は絆を深めていき祖母の症状も快方に向かい、俺は介護のあるべき姿や愛情の素晴らしさを知る 」
……てな感じで見事なまでに純文学。しかも、ほぼ私小説らしい。絵に描いたような芥川賞受賞作ですね。って、今、何時代だよ?って感じですが。

いや、しかし、まぁ、内容は感動的であると言えなくもない。私は介護経験もないし身近にそういう話もないですから、この辺に関してめったなことは口にできませんけど。
しかし、ぼっちゃんはともかくそのお母様は素晴らしいね。しかも、娘じゃなくて嫁なんだもの。きっとお祖母様も素晴らしい方だったのでしょうね。いやあ、愛情溢れる家族で羨ましいよ、全く。いや、マジで。私がこういうことを書くと自分でも不思議なくらい心がこもってないように見えるんですが、ほんとに本気ですから。

で、主題である「 介護 」以外の要素について。
まず「 ラップ 」ね。 ……ラップじゃないでしょ、これ。あ、そういう意味ではツツイは嘘ついてはないか。私が勝手にだまされたのか。むうう。でも、文庫裏紹介文は確実にだましですよ!「 新しい饒舌文体 」なんかどこにもないじゃん。こんなリズムの悪いラップも饒舌体もわしは認めんぞ。ついでに言うと「 熱狂と呪詛 」も特に感じられんぞ。そもそも、これに文体があると言っていいのかしらって感じ。

だいたい何が嫌って、縦書きに頻繁に英字表記を混ぜるセンスがもう許しがたい。単語レベルであってもあれが許されるのは近代文学までだ。現代では澁澤龍彦稲垣足穂森茉莉くらいだよ。もう皆亡くなってるけどな。
まぁ、「 YO! 」とか「 fuck! 」は冗談にしか見えないし、その他全て確信犯( 誤用 )でやってるにしても、この表記の汚さは許し難いですねぇ。
だって、縦書き日本文に横書きの英文、さらに縦書き英単語までも混在して、時にはそのそれぞれにルビがふってあるんですよぉ?これはないだろう。『 時計じかけのオレンジ 』や『 トーチカ 』( 筒井康隆による『 時計〜 』の本歌取り的作品。多分 )とかは好きな方なのでルビの多用については一般の人より耐性あると思いますが、こういうつけ方は納得できないので嫌です。 「 朋輩 」に「 ニガー 」とルビをふるなら、「 fuck 」も言い換えれば? マジメになってるところではその文体もおとなしくなってるところも嫌だ。徹底しろっての。

あと、「 マリファナ 」は作中で全然生きてないんじゃないっすかね? なんかラリって介護をしていて感情が抑えられなくなって…みたいなシーンがあるのはあるのですが、別に素面でもフツーに起こり得るレベルの話だったし。ぼっちゃん、ハッパ決めててこのくらいしかトリップできないんじゃアーティストは向いてないんじゃない?

……と、かなり批判的な感じになってしまいましたが、受賞を狙うにはこのくらいトリッキーじゃないのといけないのかもしれないわねぇ…と意外に生暖かい目で見てますよ、私^^;

同時収録の作品は悪くはないけど普通かな。 特に 『 市町村合併協議会 』は物凄い既視感にとらわれましたよ。ちょっと大人になって落ち着いてから久々の再会をし、往時の感覚で方言で会話する幼馴染って、物凄いありがちな設定ですよね。いや、別に責めてはいませんよ。

しかし、作者は色んな物語が内在してそうな環境にいるんで( 奈良の旧家のお生まれで、現在の家業は会社経営 )、受賞にふさわしい程度の才能があるのなら、そっち方面( 血縁地縁がらみ。表題作の中にもその片鱗は伺えたし )で結構いいものが書けるんじゃないかって気がするけど、どうなんでしょうね? まぁ、書いても多分読まないけど。( モブ氏がどうこうではなく守備範囲ではないからね )


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