『病の世紀』 牧野 修 [*読書記録:ホラー][*著者名:ま行]


病の世紀 (角川ホラー文庫)

◆ 病の世紀 (角川ホラー文庫) 牧野 修 ¥780

 評価…★★★★★

<あらすじ>
事の発端は連続して起こった不可解な焼死事件だった。まず、一人暮らしの男が自室で骨まで完全に燃え尽きた焼死体で発見された。部屋は完全に施錠されて火の気もなく、人体は完全に燃え尽きているのに周囲への延焼は全くない。原因不明ではあるが事件性があるとも言えず、警察は特別な調査もせずにいたが、その数日後にほとんど同じ状態での焼死体が発見された。
これには共通した何かがあるのではないかと疑いを持った刑事・毛利の話を聞いた小淵沢はあっさりとこう結論づけた。「 二人が焼死したのは病気のせいです 」

小淵沢は国立予防医学研究所の所長で、この研究所ではいわゆる奇病と呼ばれるような伝染病を主に研究しているのだという。その彼によれば、「 炎上疥癬 」という人間の皮膚に寄生して硫化燐を生成するカビがあり、それが原因で人体発火現象が起こったのだろうということなのだ。
半信半疑ながらも、他の原因が見当たらず状況が完全に一致している以上、それに対する手を打たねばならないと動き始める毛利だったが、そこに新たな炎上疥癬感染者による事件が起こってしまう。

それを皮切りに奇妙な病気に感染した人々による異常な事件が続発し始める。妄想を引き起こすウィルスに感染し異常行動をとる者、寄生虫による味覚異常から人肉食いを始める者、性交渉により感染したウィルスにより脳障害を起こし残忍な犯罪者へと変貌して猟奇殺人を繰り返す者……。

そして、その一方で国立予防医学研究所内でも、その上部組織である《INRI》本部でも不審な動きがある。この続発するウィルスによる奇病は何者による陰謀なのか?







おー、面白かったですー!かなりの長編ですが一気に読めました! 帯と紹介文でずっと敬遠してたんだけど損したなー。あれは絶対に変えた方がいい! 
ちなみに「 6・6・6 ヨハネの黙示録に記された悪魔の数字が襲い掛かる! 」(帯)、 「街に解き放たれた病原体は、黙示録が預言した終末へのカウントダウンなのか―。人々を恐怖に陥れる巨大な陰謀とは?そして立ち向かう孤独な医師の決断とは?バイオテロをも予見した、牧野ホラーこれぞ最高傑作。」(紹介文) …って感じなんですけど、そんな宗教的な感じでもテロ的な感じでもないんですよ。私の感じとしてはそれらは要素のひとつという程度でしたね。


※以下ネタバレ有り※


本作の面白さはまずとにかく奇妙なウィルスや寄生体による突拍子もない病気の数々ですね。それに伴うグロ描写なども好きな人には当然面白いです^^; 
壊れた人物と接触して自分好みに育てて観察するという妙な趣味を持つ研究員・小森さんを筆頭に登場人物も結構面白く、感染して事件を起こす人々の断片的な物語もなかなかです。主人公( 最初はそうじゃないのだが後半からそうなってしまう^^; )の小淵沢氏が一番つまんない人かも。そのせいかオチも見え見えだしね…。おっと、つい先走ってしまいました(>_<)

でも、そのオチはともかく、話の展開も結構意外な部分もあって面白かったですよ。あからさまに何かしてるだろうって感じのロバートソンの行動原理が予想とちょっと違ってたところもだけど、何といっても平田さんが悪役だったのには驚いた。平田さんかっこよくて好きだったのに。でも、悪役だとわかってもやっぱりかっこよくて好きだけど^^; 
最後の最後、《INRI》がなくなった今、もはや無意味な行動だとわかっていながら、与えられた仕事を完遂しようとするところなんか昔気質の刑事って感じでぐっときますよ^^;

で、オチなんですけど、まずこの騒ぎの全てが《 判断停止者 》という米軍の人体実験の結果、創造されてしまった存在による興味本位の実験だったというのは意外な展開でした。なんとなくアタマが陰謀論に傾いていたので、宗教もしくは思想的なものが理由か、あとは本質に帰って病原体のせいか?とか思ってしまってたのでね。
ちなみに、《 判断停止者 》とは高度な知能を有するが感情が欠落した存在という認識でよろしいかと思います。 この説明にあたって「 MKウルトラ作戦 」という実在した有名な作戦の名前も出たりして、それ以前から出てる妄想話ともあわせて、その筋の人はちょっとクスリとさせられます。( ほんとは笑うところじゃないです )

ただ、小淵沢氏が自らを炎上疥癬に感染させて研究所を爆破させるってオチがちょっとねぇ…。余りにもあからさまなのできっとどんでん返しがあるんだろうと思ってたら、ほんとにこれで終わっちゃうんだー(@_@;)って感じでした。
平田さんも頑張って脱獄してきたのにやられちゃうしなぁ。勧善懲悪で良いと言えば良いですがね。まぁ、完全な脇役だと思った荒木さんが微妙にヒーローっぽくなって終幕ってのがどんでん返しと言えば言えるかも^^;