『黒い看護婦―福岡四人組保険金連続殺人』 森 功

黒い看護婦―福岡四人組保険金連続殺人 (新潮文庫) 森 功 ¥515

評価…★★★☆☆

<作品紹介>
2002年4月に発覚し、世間に衝撃を与えた福岡県の看護婦四人組による保険金目当ての連続殺人事件についてのドキュメント。
この事件が特異なのは、女性四人組であること、その全員が看護婦であること、事件の被害者がそれぞれの夫であること、そして四人中三人は主犯格の女に操られているような奇妙な人間関係にあったことなどにある。が、何よりも特異なのは、やはりその主犯格の女・吉田純子のパーソナリティであろう。
一連の事件は1998年1月、三人のうちの池上和子の夫を全員で共謀して殺害することから始まった。


※以下[ネタバレ]有り※

ドキュメントでネタバレってのも変だけど、薄い本だし細かく色々書いちゃうと読んだ時につまらないかとf^_^;)
まぁ、こういうのを読む人は大抵事件自体をよく知ってるからいいのかな。
ああ、それよりも、この本に関しての私のコメントはいつにも増して感じ悪いと思うので、そういうの嫌いな人や関係者の方は読まないで下さいね、というお断りをした方がいいかもしれない。うん、そういうことですので、厭な気分になりたくない人は読まないで下さいね。

まぁ、とにかく出てくる方々が皆さん、おかしな人たちなんですよ。誰一人として感情移入も同情もできない。
全員がわけのわからない理屈や感情で動いてるし、事件が始まる前の言動も理解できないものが多くて、元々変な人達が集まっただけって感じなんだけど。
犯罪モノ好きで結構読んでるけど、こんなにピンとこなかったこと初めてかも。被害者も加害者も何か変なんだよね。
吉田純子は確かに異常だけど、それは周りが助長したんじゃねーの?って気がする。
特に堤美由紀さん、あなたですよ、あなた。あなたがしっかりしてればこんな事件は起こらなかったんじゃないんですか?とか。純子の夫もなぁ…。
何だろうなぁ、このすっきりしなさ加減。

ふつう犯罪モノ読んだ時は、殺人事件が多いこともあり、加害者への怒りが新たになったり、被害者やその遺族へ感情移入して悲しくなったりとかするんですね。時には加害者の知られざる事情に同情を感じてしまったりもするし、こんな加害者や被害者を生んでしまう社会に憤りや遣り切れなさを感じたりとかもするし、とにかく物凄く感情が波立つものなんですね。で、大抵は凄く嫌な気分で、でも、夢中で読みます。
しかし、この作品の場合は、一貫して何か気持ち悪かった。面白いことは面白くて、薄かったのもあって一気に読みましたけどね。知られざる事実もたくさんありましたし。でも、やっぱり気持ち悪いとかしか言えない。この人達はほんとに私と同じ土壌で生活してる人間なのか?と思ってしまうくらい理解できないんだよね。
ちなみに私の出身地は事件の舞台から結構近いし、現在の住まいも西日本だし、歳も凄く離れてるわけではないので、本来ならかなり近い感覚のはずなんですがね。方言はすごくリアルだったけど、それだけに言動がリアルじゃなく感じられて何かとにかく不思議だった。

純子と美由紀の同性愛のくだりも意味がわかんないしなぁ…。純子はもしかしたら男嫌いなのかなという印象も受けるんだけど、美由紀との交歓の様を読む限り男の代用にしてるとしか思えない。全く受身だし。
で、美由紀は全くその気がなくて、純子のことも別にすきじゃないのに何故できるんだろう???ネコならともかくタチだよぉ? 
私、結構同性好きだけど、よっぽど好みのタイプか人間的に相当好きな相手じゃないと攻めではできないと思うもん。(ちなみに経験はない)
報道で、「4人の奇妙な共同生活」「女王として君臨する吉田」「中には同性愛も」とかいうのを目にはしていて、その時は「ああ、カリスマ性のある人なんだなぁ」とか「固く結びついた人間関係は得てして性愛の方にも横滑りしがちだからなぁ」とか思っていたのだが、どれひとつ合致してない。何だこれ?

あと、本筋に特に関係はないけど、こういう犯罪ドキュメント読んでると不思議なくらい登場人物が妊娠、中絶をするんだよね。世の中には不妊で悩んでる人もたくさんいるのに何故こんなところで無駄に受胎しちゃうんだろうと理不尽さを感じます。
それにしても、この事件の場合、主要な登場人物はみんな看護婦なんだぞ。避妊ぐらいしろよ…。特に美由紀。こういうだらしなさが全く同情できない要因だよな。

閑話休題
で、最終的には仲間のひとり(ヒト美)に売られて終わるわけですが、なんかこの辺もすっきりしない。意を決して、ではなくて、図らずも(別件で身内に相談したら身内が警察に訴える方向へ持って行ってしまった)って感じなんですよね。そこが何だかなーと。で、捕まってからのあれこれもなんかどうでもいい感じ。

ただ、吉田純子のカリスマ性(というか何というか)は限られた状況下でしか機能しないんだろうなと思っていたので、拘置所の配膳係の女性を短時間でたらしこんだのにはちょっと驚いた。筆者は作中で吉田純子には、人間の弱みを瞬時に嗅ぎわける才能がある。いったん相手の弱みを発見すると、そこを徹底的に責める。そうすれば誰しも脆い。これまでの人生でそれを実感してきた」 と述べてるのですが、「誰しも」ではないだろうと思うよ。だって、それが事実なら純子は多分こんなことしてないもん。思う通りにならない人がいるからこうなったんじゃないですかねぇ。

ああ、そうだな。この事件って、何か閉鎖された関係内で起こってる感じが強いからどうでもいい気がするのかも。
ふつう先行き(事件によっては判決そのもの、多くは加害者と被害者のその後)が凄く気になるんだけど、この事件に関しては別に全然どうでもいいもん。それぞれの子供だけはかわいそうだと思うけど。まぁ、それはヤクザな親がいるのというのと同じレベルでの同情に過ぎないな。

筆者が文庫版あとがきで、読者から 「余りにも現実離れしているので思わず噴き出してしまった。でも、最後まで読んだら怖くなった」 というような意見を少なからずもらったと述べているけど、私はそういう風にも思えないんだよね。マジョリティの意見ってどうなのかしらね?