『 必要とされなかった話 』 三友 恒平

必要とされなかった話 (IKKI COMIX)

◆ 必要とされなかった話  三友 恒平 ( IKKI COMIX ) \750

評価…★★★☆☆

<あらすじ>

食糧不足により口減らしを行う必要が生じたある村。そこで、長老の発案により、村の誰からも自分にとって一番大事な人間として選んでもらえなかった人が追放されることになった。村人達には事情を知らせないまま密かに選別が行われた結果、残ってしまったのは6人。

年齢性別境遇もまちまちなその中の1人が主人公である少年。そして、選ばれた中で唯一、選んだ側も選ばれた側も衝撃を受け、抵抗したのは少年の家だけだった。彼の身内は姉だけだったのだ。幼くして両親を無くし、支え合って何とか生き抜いてきた2人にとって、お互いはかけがえのない存在だった。しかし、姉は婚礼が決まったばかりで、一番大事な人と言われては夫になる人を選ばないわけにはいかなかったのだ。姉は必死で抗弁するが、長老の姿勢は強硬で、少年を含めた6人は予定通り村の外の森へと追いやられた。

姉の心情や村の事情はある程度理解できても、自分が姉の一番大事な人として選ばれなかった少年は深く傷つき、冬が迫る森の中で1人思い悩む。誰からも必要とされない自分が生きていく必要があるのかと思いながらも、生きたいという本能的な思いは消せない。そして、そんな心情の問題は別として、気候や食糧不足などの外的要因から生命の維持が厳しい状況となってくる。

そんな中、一緒に追放された他のメンバーや、思いがけない存在との邂逅があり、それぞれの事情や思惑から事態は思いがけない方向へと展開していく。


書評で見かけて気になっていたこの作品。題名といい、陰鬱な感じの表紙絵といい、読むのに勇気がいるなぁと思いつつ、読み始めたのですが、意外や意外、全然爽やかないい話でした( 感想には個人差があります^^; ) 

人が陥れ合ったり、殺し合いをしたりするような陰惨な嫌な気分になる話が読みたい方にはオススメしません(笑) 正直、私もそんなのを期待してたんですけどねf^_^;)

※以下ネタバレ有り※

あらすじからおわかりの通り「 必要とされなかった話 」という題名は比喩でも何でもなく、ほんとにストレートに内容を表してるんですね( 笑 )。 ただ、その選択のために村人全員に投げかけられる質問はちょっと卑怯だし、必要かどうかと大事であるかはまた違う話だと思うけど。

まぁ、ともあれ、そういう事情で追放されてしまった少年が思い悩みながらも森の中で生きる姿を軸に、それぞれに物語のある他の「 不要な人 」たちの話が展開されていくわけですが、そこに絡んでくる思いがけない要素がちょっと微妙かなぁ…と。

最初のキモいおっさんの話はインパクトはあるけど、ちょっと取ってつけたような感は否めないんだよな。単に変態なのか愛情を求めるが故に歪んだのかとかその辺も説明不足でもあるし。

少年と同時に追放された幼なじみの少女が天然なのか、ちょっと足りないのかと思ってたら、むしろ病的に危ないコで、実は口減らしが行われる原因になった食糧庫の火事というのも彼女が自己中心的な発想により放火をしたためだったという話とか、村長の息子で次期リーダーとして重く用いられて人望もあったのに死病に犯された途端、一転して邪魔者扱いで追放までされてしまった青年の復讐計画とかは確かに陰惨だし、なかなか悪くないんだけど、狼が出てくるのはいかがなものかなぁと。

何か動物が出てきちゃうとそれだけでいい話になってきちゃう感じがしません? で、実際、いい話になっちゃうんだけど、その狼の心情も何だかなぁって感じなんだよね。 はっきり言うと嘘くさいんですな。絵空事って感じ。 いや、全くないとは思わないし、人によっては説得力あると感じるかもしれないけど、私のようなひねくれた人間にはどうも。 まぁ、それでもいい話だなぁと感じさせはするけどね。

そして、読み始めからすると全く予想外でだけど、読み進めてるうちにはこうなるだろうと思っていた実に爽やかで前向きなラストはとても良い感じです。色んな意味で考えさせられ、かつ、生きる気力が湧く気がする。上手く言えないのですが、仮に誰からも必要とされていなくても生きていかなければならないというか、生きていくということはそれだけで意義があるというか、そういう風に思わされました。

ちなみに本編の絵は表紙絵のように陰惨な感じではなく、鉛筆画のようなタッチが特徴的な素朴な感じの絵です。

( 5月31日読了 )