『 わが教え子、ヒトラー 』 ( 2007・独 )

わが教え子、ヒトラー デラックス版 [DVD]

◆ わが教え子、ヒトラー ( 2007年・ドイツ )

監督:ダニー・レヴィ

出演:ウルリッヒ・ミューエ、ヘルゲ・シュナイダー、ジルヴェスター・グロート、アドリアーナ・アルタラス、シュテファン・クルト 他

 評価…★★★★☆

<あらすじ>

1944年12月、ナチス・ドイツは連合軍との戦いに連敗し、首都ベルリンすら敵の攻撃で荒廃し、幹部クラスの邸宅まで焼け落ちるという完全な劣勢にあった。この国家存亡の危機に何とか民衆の戦意を高揚させようと宣伝相のゲッベルスは元日にヒトラー総統の大演説会を開くことを思いつく。

言うまでも無くヒトラーはドイツにおけるカリスマで、彼の演説が人々にもたらす影響は恐るべきものだ。この計画は必ずや上手くいくと思われたが、その肝心な総統がなんと完全に自信喪失し、鬱状態になっていたのだ。明白に精神の均衡を失っている状態のヒトラーに全盛期のようなカリスマ性を取り戻させるにはどうしたらよいか。

そこで、ゲッペルスが思いついたのは、かつての名優で大学教授でもあるユダヤ人、アドルフ・グリュンバウムだった。もちろんユダヤ人である彼は強制収容所にいるが、急遽呼び戻し任務を言い渡す。グリュンバウムは戸惑いや不信、反発はあるが、これで自身と家族の生命の安全はしばらく確保できると考え、とりあえず引き受けることにする。

何故ユダヤ人をという周囲や総統本人からの反対をものともせず、計画を実行に移すゲッペルス。実は彼には更なる計画があったのだ。

ふたりのアドルフは戸惑い、反発したり、小競り合いをしたりしながらも、演説の訓練とそのための精神的なカウセリングめいたことを始め、それはかなり上手く行き始め、お互いの心も徐々に通い始める。そして……。


うーん……、これは凄く評価しづらい作品ですねぇ。面白い面白くないで言えば面白いんです。それはもうはっきりと。最初から最後まである種の緊張感と様々な面白さがあって後味も悪くない。でも、このテーマをこういう風に描いているのを面白いって言っちゃっていいのかなぁって気がしちゃうんですねぇ…。

てゆーか、そもそも、この作品は何を描きたいのかがちょっと疑問(*_*) 

よくあるシリアスなのに妙なおかしみがあるというような作りではなく、結構はっきりとコメディタッチなんですよね。あの悲惨で残虐な歴史的事実を考えるとそこにも抵抗を感じないではないですが、敢えて視点を変えて見るというのはありだと思うし、重いことを軽く語る ( あくまでも語り口が軽いのであって、軽く流しているわけではないですよ ) というのもありだとは思うんで、それはまぁいいんです。英雄化、偶像化されている人物を引きずり下ろす手法としても滑稽味というのは欠かせないし。

でも、本作ではヒトラーもその取り巻きもかなり露悪的に滑稽に描かれているのですが、そこに悪意が感じられないのです。ヒトラーの正体はコンプレックスやトラウマに塗れて心身ともくたびれ果てた小心な中年の小男で、側近中の側近である幹部や愛人らもそんな彼を実際は軽んじているというようなことを描き出してはいるのですが、それは偶像を地に落とすというやり方ではなく、むしろ、彼も我々と同じように思いやりも愛情もあり、悩み苦しむ傷つきやすい人間なんだと思わせるようなものなのですね。 独裁者になったのも幼少期の虐待のせいだみたいな部分もあるし。

しかし、ヒトラーを同情すべき人間だと思わせる必要がどこにあるのだろうかと思うわけです。あれだけの人類史上に残る愚行を成し遂げた人間の人間性を理解してやる必要があるでしょうか?彼のやったことは誤解や同情が入り込む余地はないのです。仮に何らかの崇高な理由があったとしても許される行いではないですからね。そんな彼が音楽や絵画を愛する芸術家気質であったとか孤独で傷つきやすい性格だったとかいう情報は無意味ではないでしょうか。

そして、この作品を作っているのはその人物を生み出し、その行いに手を貸したまさにその国であるということがまた判断を難しくしています。あんなチンケな誇大妄想狂に国家全体が引きずられて狂ってしまい、取り返しのつかないことをしてしまったという過去を自らが蔑み、笑いにしているというのであればわかるけど、妙にヒューマンドラマっぽくなっているのが気になるのですな。歴史の裏のちょっといい話的な趣すらある。どんな状況下であっても人間同士の心の触れ合いがとか、どんな人物にも斟酌されるべき事情がとかいうのは定番ではあるけど、この題材でそれはダメじゃないかなぁ…。

で、実話ならともかくフィクションでしょう。あ、でも、監督はユダヤ人なんだ。ああ、ダメだ、私には判断できない…(-"-;)

( 11月鑑賞分 )