『 大相撲殺人事件 』 小森 健太朗

◆ 大相撲殺人事件 小森 健太朗 ( 文春文庫 ) \710  評価…★★★☆☆       <作品紹介> ひょんなことから相撲部屋に入門したアメリカの青年マークは、将来有望な力士としてデビュー。しかし、彼を待っていたのは角界に吹き荒れる殺戮の嵐だった!立合いの瞬間、爆死する力士、頭のない前頭、密室状態の土俵で殺された行司…本格ミステリと相撲、その伝統と格式が奇跡的に融合した伝説の奇書。 ( 文庫裏表紙紹介文 ) ------------------------------------- この紹介文はちょっと大げさじゃないかしら…。ざっくり言っちゃえば単なるバカミスですよ^^;
わけのわからない外人力士( 元を付けるべき? )が大麻八百長だとウソだホントだとわけのわからないことをほざいているのに、何故だか大勢の人々が振り回されている世相に合わせたわけでもないのですが、京極夏彦氏の 『 どすこい。 』 以来の相撲系バカ小説です(笑) あ、笑いメインの 『 どすこい。 』 とは違って本書は一応ちゃんとミステリですが、まぁ、バカなことに変わりはないです^^;  まぁ、物凄く下らなくて脱力するけど面白いことは面白いという種類の小説ですねぇ。 解説の奥泉光氏はやたら褒めてますけど、そんな大層なものではないです。あ、でも、紹介文にある 「 角界に吹き荒れる殺戮の嵐 」 というのは看板に偽りなしで、作中で 「 一年前に幕内にいた力士も、この一年で40パーセントくらいいなくなっちゃったわねぇ 」 という述懐があるくらいです( 笑 )  あんまり勢いよく殺されるんで、ただでさえ人材不足なのに相撲界は大丈夫なのか?と思ってたとこだったので思わず笑っちゃいましたが、さほど深刻そうでもないし特に対策を打ってるようにも見えないのですけどね。 ちなみに、殺され方も結構残虐で、人体の一部を欠損するパターンが多いです。当然流血なども多く、女子高生の聡子ちゃんにこういうのを見せ続けていたら教育上非常に良くないと思うのですが、本人を含めて皆さん結構無頓着です。これ、殺人現場に力入れてバカ映画にしたら面白そうだなぁ^^; ※以下ネタバレ有り※ それにしても、日本の大学に留学しようとして相撲部屋に入門してしまうマークという設定はいくら何でもムリがありますよね…。ふつうは来日する前に留学の手続きとかとってくるって。何の情報もないような小国から来たとか言うならまだしも、アメリカ在住だったわけだし。しかも、大学に行こうとするくらいだから知的レベルも高いのでしょうに。 それと口だけのダメなヤツ設定の御前山に対する聡子の態度がちょっと不快です。確かにダメなヤツだし、全く肩入れする気にもならないキャラクターなんだけど ( てゆーか、これも誰にも感情移入できない作品だな… )、親方のお嬢さんだからって失礼過ぎるでしょう。礼節を重んじる世界のはずなのにそれを誰もたしなめないのも不愉快です。 その他の物凄いめちゃくちゃな設定については問いませんけど、知事の話だけはちょっと…と思いました。性転換すれば性が変わるというものではないだろうとか、ジェンダー的な話で色々思うところがあるのですが、まぁ、こだわるようなことでもないので割愛。 同じめちゃくちゃでも、マークへの同性愛的思慕からくる独占欲などから、彼の対戦相手を次々と ( 14人も! ) 殺していく横綱の話は愉快でした。最後の黒力士の話もいいです^^; あと、聡子とマークの会話が全編通してカタカナ英語で行われるのが、最初はイラっとするんですけど慣れてくると意外と楽しいです^^; ちなみに私は相撲には特に興味はない ( というか、いかなるスポーツにも興味がない ) のですが、国技として尊重し、応援する気持ちは一応もっています。ですが、同時に時代小説好き、歴史こぼれ話系好きとして、それなりに相撲の歴史などを知っている身としては、相撲がなんぼのもんじゃいという気もします。先日紹介した 『 綾とりで天の川 』 の中の 『 二つの業界 』 にもありましたが、相撲取りからヤクザ者になる人は非常に多かったんですよね。( 詳細は丸谷氏の本をご参照下さい^^; ) そもそも、別に全ての相撲が神事だったわけではないですからね。それこそヤクザ者が興行する見世物としての相撲の方が多かったわけです( ※江戸時代の話 )。つまり、プロレスと何ら変わりはないわけですから、八百長だの不良行為だのあったところで何の不思議もないし、騒ぐほどのことでもないと思いますがね。 ( 11月読了分 )