『銀行籠城』 新堂 冬樹

銀行籠城  新堂 冬樹 (幻冬舎文庫) ¥560  評価…★★★☆☆ <あらすじ> 閉店間際のあさがお銀行中野支店にひとりの男が滑り込んできた。案内係とも顔見知りのその男はいつものようににこやかに挨拶を交わした後、おもむろにリュックから銃を取り出し、案内係を人質として確保した。そして、異変に気付き行内から脱出しようとする客のひとりをためらいもなく射殺した。突然の惨劇にパニックになる行員と客に向けて男は言った。「俺の名は五十嵐だ。いまから、俺が支配者だ」 冷静で無表情なその男・五十嵐は行内の状況などの下調べも完全にしているらしく、その行動は考え抜かれたものだった。五十嵐が銀行に押し入った目的は金ではないという。そして、短時間の間にみせしめのため二人の人間をあっさりと射殺し、冷酷に振る舞っているがそれらの殺傷行為が目的というわけでもないようだ。そして、警察への交渉を始めた彼は驚くべきことに自分の名前を堂々と名乗り、所有している携帯番号も明らかにする。そして、電話に出た刑事・鷲尾に彼は初めての要求を出す。その内容は驚くべきものだった。 とても正気とは思えない五十嵐の一連の行動だが、彼の言動は冷静で首尾一貫しておりむしろ知的であり精神に異常を来たしているとも思えない。五十嵐の真の目的は一体何なのか?
設定的に黒新堂かと思わせておいて、実は結構白新堂も入ってる感がある本作は灰色新堂とでも言うべきなのでしょうか? (白新堂作品ちゃんと読んだことないですけど^^;) 正直食い足りない感は拭えないですよ。残酷描写とか黒新堂であれば当然期待されるであろう極限状態での人間の醜さとかほとんどないんですね。エロもない。舞台は銀行というんで期待して読み始めたら(どんだけオッサンなんだ…)見事にすかされました。ただねぇ、ラストでうっかり泣いちゃいました私。新堂冬樹作品を読んで涙する日がくるとは夢にも思わなかったぜ、ちっ。まぁ、ちょっと酔ってた上に油断してたからかもしれませんが。 ※以下ネタバレ有り※ とにかく最初は不可思議な銀行籠城犯である五十嵐への興味で読みすすみ、中盤から意外にも警察側の内部ドラマへの面白さ(寡聞にして特殊班と強行班の関係を本作で初めて知りました)や何かで読ませ、後半はストーリーは読めてきつつもさてオチはいかに?という期待で読ませて、ほんとに一気に読めちゃいました。まぁ、薄いのも薄いんですけど。そして、新堂作品はほんとにいつも夢中になって一気に読んじゃいますけどね^^; 24人もいる全裸の人質をいちいち全部名前と容姿と見た目年齢付きで紹介しているのもあって、当然そういう人間ドラマみたいなものを期待するんだけど、そういうのは残念ながら一切ありません。支店内一の美男美女がどうやらデキてたらしい話とか行内での軋轢みたいな話がちょっとあるくらいのことで、それも深くは掘り下げてないし、妙齢の女子が全裸でうようよしてる割にはエロも全くなし!(←かなり不満らしい) 登場人物が今までの新堂作品に比べてやたら多い割にはキャラが立ってる人がいないんですよねぇ。五十嵐くんもそんなに詳細な過去が語られてるわけでもないし。本来ならもっと長編にできる話だと思うんだけど、そうなると黒新堂の要素が強くなり過ぎちゃうからやめたのかなぁと思ったりして。黒新堂ファンとしてはちょっと残念ではあるけど、思いがけず、いい話を読んでカタルシスを味わった感もあるのでまぁいいかなぁと思っています。あ、本来的な意味ではいい話ではありません、念のため。 でも、本作の根本的なテーマともいえる犯罪加害者家族の人権保護というのは本当に重要な問題だと思います。もちろん被害者や被害者家族のこともですが、日本はそのどちらに対しても対策がろくに為されてない上にマスコミをはじめとする世間の対応がひどいんですよね。まぁ、加害者家族の中には「お前が責任とって死ね」って言いたくなるような人物もたまにはいますけど、それはそれとして犯罪者ではない人々の人権は守られるべきです(犯罪者の人権については色々あるのでここでは保留)。そして、その代わりに被害者家族への対応をきっちりさせる(殺人事件などで刑事判決とは別に民事で賠償金支払いの判決が出てても、最初の数回の支払いすらろくにせずにトンズラするヤツが大半なんだそうです)ような仕組みを作るとか、何とかならないもんですかねぇ、エライ人たち?