『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』 本谷 有希子

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ 本谷 有希子(講談社文庫)¥470  評価…★★★☆☆ <あらすじ> 舞台はとある田舎の山村の家族である和合家。不慮の事故で父母が亡くなり、その葬儀のために東京に出ていた長女の澄伽(すみか)が4年ぶりに帰ってくる。それを迎える次女・清深(きよみ)と長男であり姉妹とは血のつながらない兄・宍道(しんじ)の様子はどうもおかしい。実は彼らの間にはある忌まわしい過去があったのだ。それぞれにエキセントリックなところのある兄妹たちに、天然かつ後天的に奇妙な性格を持つ宍道の新妻・待子が絡んで奇妙な愛憎劇が始まる…。
※以下ネタバレ有り (5月読了分) 映画化が決まったので文庫が出たみたいな作品を読むのはどうも好きでないのですが、以前から読みたかったもので節を曲げて購入。まぁ、そうしただけの事はあったかな。オチは微妙だけど。 特に犯罪的だったり不道徳だったりすることがあるわけでもないのですが(あ、清深の脅迫電話と血のつながらない兄妹の相姦はちょっとそうだけど、情念が絡んでないんで大したことない感じなんだよね)、登場人物が全員まともでなくて感情移入しづらく話が変な方に進んでいくという意味では鬼畜系に通じるものがありますね。被害者ぶってる人(清深)が一番悪人だったりするとこも。ああ、悪意はないんだから悪人は適切じゃないかもだけど、結果としてね(笑) まぁ、感情移入はできないけど、宍道さんはすごくかわいそうだし、澄伽もかわいそうだとは思うんだよね。待子さんはかわいそうなようなある意味幸せのような。だって、彼女は初セックスできたし、これからの一応の居場所もできたからね。宍道さんはいい人だし、澄伽は心の弱い勘違いバカだから不幸になるしか道はないって気もするけど、まぁ、かわいそうではある。 ストーリーとしては、裏表紙に書いてた「(澄伽が)妹から受けた屈辱」ってのが、ちょっと意外な内容(澄伽の観察記録をマンガに描いて投稿したところ雑誌に掲載されてしまい、上京費用のために同級生相手に売春していたことなどが村中に知れわたる…というもの。掲載誌も含め、ちょっとムリがある気がするけど)だったのと宍道が待子をほんとにエジプトに旅行にやることに驚いたくらいで、宍道と澄伽の相姦関係とか澄伽の文通相手の映画監督が実は清深だったとか清深が最後に全てをばらして出て行くとかは想定通りって感じだったね。その結果、壊れかけた澄伽が待子に妙な救われ方(救われたのか?)をするというラストは想定外だったけど。でも、元々は戯曲だったというのを考えれば何となく納得できる感はある。 すっごい面白かったとかいうわけではないけどパワーとシンパシーは感じるので、この作家の作品をもう一冊くらい読んでみたいとは思う。