『 いい加減にしろよ(笑)』 日垣 隆

◆ いい加減にしろよ(笑)  日垣 隆 (文春文庫) \580  評価…★★★★☆ <作品紹介> 「いかがわしいもの」や「不条理なもの」を徹底鑑定いたします。細木数子平山郁夫、甘ったれNPO、被害者放置の警察、野放しにされた心神喪失者、何を言っているのか理解不能な判決文、無責任な裁判官たち、法の精神に造反する少年法、しょうもないバカ本の数々…。恐いもの知らずの著者の筆が冴えわたる、13の真贋鑑定。 ( 文庫裏表紙紹介文 ) かの名著 『 そして殺人者は野に放たれる  』 を著した日垣氏が様々な題材について取材し、分析した文章を集めたものです。 書名に 「 ( 笑 ) 」( 奥付にはちゃんと「 かっこわらい 」 とルビがふってありました^^; ) と付いていることからも推察できるように、論調は比較的軟らかく 、題材自体も硬軟取り混ぜたもので、更にそれぞれの文章も比較的短いので、大変読みやすいのですが、中身は非常に濃く、その主張はやはり硬派です( 笑 )
冒頭の章がいきなり細木数子だったので、そういうのに全く興味がなく批判する気すら起こらない私は、ちょっと出鼻を挫かれる感がありましたが、対話形式で書かれたインタビューを多く引用しての著者の考察が新鮮で意外に面白く読めましたし、続く平山郁夫氏の章は私には驚くべき内容が多く書かれていたため、こちらも大して興味がない人物についての話でしたがなかなか感心しました。 それ以降の章は著者の得意分野かつ私の好む分野の話が多く、非常に満足しましたが、こうなってくるともう少し読みたいなぁと思うものが多かったですね。 しかし、 『 そして殺人者は野に放たれる 』 を読んだ時にも思ったし、その他様々なノンフィクションの類を読む度に思うのですが、どうして世の中は正しいことが正しく行われないのでしょうか? いや、こういうとちょっと極端過ぎますけど、明らかに間違っていることが罷り通って、正しいことが退けられて、しかもそれが伝えられることすらなく終わるというのが余りに多いと思うのですよね。そして、そういうことを主張する場や方法が驚くほどにない。 この現象が弱者や少数者を切り捨てるという発想から生じているとは言い切れないところがまた問題で( これは誤解を招く表現だとは思いますが、うまく言えないので…。しばらく見逃して下さいm(_ _)m )。 心神喪失精神障害、性犯罪、少年法、犯罪被害者と加害者、およびその親族、様々な局面での警察の対応等々に関する法律上、制度上の問題というのは私が知る限りでも随分と数多くあるのですよね。そして、その殆どが一般には知られておらず報道もされないし、当然ろくな対策もとられていない。自分が何らかの活動をしているわけでもないのに口先だけで言うのはどうかとは思うのですけど、ほんとに世の中にはどうにかしなきゃいけないことがたくさんあると思うのです。でも、そういうことの大半が自ら知ろうとしなければわからないという状態だというのがおかしいと思うのですね。愚にもつかない情報は繰り返し垂れ流しているのに、何故こういうことを報道しないのだろうかと心から不思議に思うわけです。 本書中でも書かれていますが大々的に報道されていた事件が、ある理由によって突然なかったことになるのも全く不可思議な話です。そういう事実を含めて報道すべきではないのでしょうか? 個人情報保護というのなら被害者の姓名や年齢、為された犯罪行為の詳細を報道する必要が一体どこにあるのでしょう? ( まぁ、確かに下衆な人間としては知りたいんですけどね… ) また、報道云々以外にも、教育という形で知らせなければないことも確実にあると思います。 …と、こういうことを書いていると全くまとまらなくなってくるので中止します(>_<) 横滑りしてもきちんと説明し主張できるのならいいのですが、それだけの能力がない上に知識も偏向しているので…(T_T) まぁ、そんなこんなで色々と考えさせられ、知識も増える上に、気軽に読めて面白いと言う素晴らしい書でございます(^_^;)  私の得意分野 ( 笑 ) 以外で面白くかつ感心したのは、全島避難命令が解除した直後の三宅島のルポですね。余り関心を持っていなかったのでニュースなどを見ても、ああ大変だなぁくらいにしか思ってなかったのですが、充満する有毒ガスと降り注ぐ酸性雨の様子を明晰な文章で詳細に説明されるとかなり衝撃でした。「 酸性雨 」って軽く言うけど、つまり硫酸が降ってるのか!と、恥ずかしながら化学式を見て初めてちゃんと理解しました。車も自販機も家の屋根も溶けてしまっており、防毒マスクを常時着けていないと喉や目をやられるという状態で生活するなんて、とても現実の出来事とは思えないですよね。 あと、これはやや得意分野ですが、JR福知山線の大事故についての分析は私が思っていたことそのままで実にすっきりしました。 そして、凄く胸をつかれたのは『 病名鑑定 』の章での冒頭の部分。かの有名な国民的人気ドラマの中で、発せられたある台詞が取り上げられます。 「 人間は誰だって言葉をしゃべるものなんだ! 」 ( 前後の状況はいまいちよくわからないのですが ) そして、著者は続けます。 「 私の胸は苦しくなる。「 言葉をしゃべる 」 ことのできない友人が私には少なからずいるからだ 」 こういう無防備な発言というのは実はあちこちで見られるものなのですよね。そして、殆どの人に気付かれることもなく見過ごされ、一部の人を深く傷つける。 私は比較的こういう発言に敏感な方だとは思うのですが、それこそ言葉を発している( しかも、こんなモノまで書いている… )以上、自分でも同じことをしてしまいかねないと改めて思わされたのです。著者も書いているように、誰も傷つけることのない言葉などないと言ってもいいのかもしれないわけですから。 昨今の用語規制のように特定の言葉に変に神経質になる必要は正直ないと思うし、毒舌や暴言も否定しません。( てゆーか、自分がそういうコトを言いがち f^_^; ) ただ、無自覚であってはならないのですよね。まぁ、この 「 敢えて 」 と 「 無自覚 」 の区別が難しかったりもするわけですが、とりあえず報道関係や、先ほどのような国民的人情派ドラマ( 見たことないので内容をよく知らないのだが ) などにおいては、そういう言葉遣いには敏感であって欲しいと心から思いました。 実際、今でもテレビのコメントなどで無神経な発言はかなり多いんですよね。変なところでは不適切だとか言って大騒ぎするのに、これはいいんだとか思うことがよくあります。あ、また難しい分野に踏み込みかけてるな…。えーと、まぁ、ともかく言葉の持つ意味とか力について、人はちゃんと考えねばならないなぁと改めて思ったことなのでありました。 本書を読まれてお気に召された方は、是非ぜひ 『 そして殺人者は野に放たれる  』 にチャレンジしてみて頂きたいものです。