『 タイムスリップ釈迦如来 』 鯨 統一郎

◆ タイムスリップ釈迦如来 鯨 統一郎 (講談社文庫) ¥620

評価…★★★☆☆

<あらすじ>

吉野公彦は28歳ながら、ダイビングによって不良生徒を更生させる 「 吉野ダイビングス クール 」の経営者であり、教官でもある。実は吉野は、かつてダイビング中の事故で死にかけた時に仏陀の声を聞き、 「 すべての執着を捨て、子供たちのために尽くせ 」 という啓示を受けるという経験があり、その啓示に従ってこのスクールを始めたのだ。

そんな彼のスクールにある日、妙な女子生徒が入校してきた。家出をしたということで両親にこのスクールに入れられたという彼女・麓 麗は、髪をオレンジ色に染めており、言動はマイペースで少々礼儀に欠けるところはあるが、いわゆる不良生徒や問題児という感じではない。しかし、彼女には決定的におかしな点があった。家出の件に話が及ぶと、「 家出じゃなくてタイムスリップしてただけ 」 と言うのだ。

そんな彼女だが、ダイビングには意欲を見せ、無事に最終訓練のインド洋ダイビングツアーにまで進んだ。仏陀の声を聞いてから仏教に帰依するようになった吉野にとっては、インドは特別な意味のある土地だ。そこで最終訓練をする感慨に耽りつつ、吉野は麗と共に海底へと向かった。ところが、そこで不運に見舞われ、二人は生命の危機に瀕し意識を失う。

そして、意識を取り戻した時、吉野は何故か紀元前のインドらしいところにいた。有り得ない状況に混乱する吉野の前に麗が現れる。以前からタイムスリップ経験者だと主張していただけに彼女は落ち着いたものだった。信じられないことではあるが、タイムスリップしたという彼女の説明を受け入れるのが現状では一番自然だと判断した吉野は、途端に前向きになり本物の釈迦に会って弟子になろうと決意する。自分を看病してくれていたオネエ言葉の妙な僧にあれこれ聞いたところでは、今はまさに釈迦が活動しようとする時期で、場所も程近いので 「 釈迦族の王子のゴータマ・シッタルダ 」 と言えば、すぐに見つかるはずだ。

吉野がそれを口にすると、側にいたその妙な僧がそれは自分のことだと言う。物腰といい、言動といい、そんなことは有り得ない、釈迦への冒瀆だと思う吉野だったが、本人以外のあらゆる要素がそれを真実だと示していた。

自分達がタイムスリップしたことによって歴史が変わったのかもしれないと思った吉野は、己が知る釈迦とはかけ離れたこの釈迦をどうにかして仏教を発展させようと決意する。そして、麗によればそれが元の世界に帰る方法にもなるらしい。今いる世界が自分達の知る歴史と同じように進んで行けば、どこかで元の世界に帰れるらしいのだ。

世界中の仏教徒と自分のために吉野の奮闘が始まった。果たして、仏教の未来は?そして吉野と麗の運命やいかに?

『 タイムスリップ森鴎外 』 、 『 タイムスリップ明治維新 』 に続くタイムスリップシリーズ第三弾。


この題名とあらすじを読んで、本書がシリアスな話だと思う人はいないとは思いますが、一応断っておきます。徹底的にふざけた話です^^;

キリスト教とかでこんな話を書いたらマジメな信者に刺されたりしそうなくらいですが、仏教徒は多分そんなことはしないでしょう、何となく。

奇想天外なストーリーの上に、物凄い気の抜けるようなギャグが多発され、オチも物凄いですが、仏教にちょっと詳しくなれることは請け合い^^;

いや、ほんとに結構情報量ありますし、思想的な部分については割と真面目に書かれていて、老子ソクラテスの思想にも言及されているし、そういう部分もなかなか面白かったです。こういうの読んで、ちょっと宗教や思想に興味を持って勉強を始める若者がいたら楽しいなぁ^^

あ、本作はシリーズものではありますが、前作を読んでないと話がわからないとか面白くないということはないと思います。まぁ、読んでた方が登場人物の設定がよくわかるとは思いますが、本作の場合は吉野が主人公なので ( 文庫裏紹介文には名前すら出てないけど(-"-;) 、さほど支障はありません。

ちなみに私は第二作目は読んでません。明治維新にはちょっと食傷気味なのと、女子高生が明治時代にっていう設定がそそらなかったので。文豪が現代にタイムスリップしてくる設定でミステリ仕立ての第一作 『 タイムスリップ森鴎外 』 は好きなんですけどね。

※以下ネタバレ有り※

それにしても、いくら何でも、老子ソクラテスを釈迦の弟子にして仏教徒にするってのはあんまりだろう…。しかも、老子は美少女でエスパーって…。凄い魅力的な設定ではあるけど、ちょっとやり過ぎではないかしら。まぁ、面白かったですけど。

ちなみにソクラテスいかりや長介似の粗野な感じの男で、チャネラーみたいな存在( アポロン神と交信するのです )として描かれてます。その能力を認めている割には老子に比べると随分扱いが悪いですね^^; 老子は本作の中では能力もキャラクターとしての魅力もずば抜けてます。影の主役と言っていいかも。

しかし、おネエでゲイで、物凄く素直で開けっぴろげだけど、いいかげんな性格の釈迦は結構アリだなぁと思いましたね。仏教の教えや、釈迦の生涯の逸話などと照らし合わせても違和感ないんですよね。むしろ腑に落ちたりして^^;

あ、タイムスリップだのエスパーだのという語が出てはいますが、本作はSFではあり得ません。まぁ、そういう言葉を全く知らないとか、そういう要素には拒絶反応を感じるという人はこんな題名の本を読もうとは思わないでしょうけど、逆に真面目なSFファンも読まない方がいいかも^^;

本作はSFでもミステリでも歴史小説でもなく、仏教に関する知識を散りばめた壮大なバカ話です^^ 低俗なギャグやおふざけが嫌いな人は決してお手にとられませぬよう(笑)