『キンキーブーツ』(2005.英)

◆ キンキーブーツ (2005年・イギリス)

 監督:ジュリアン・ジャロルド

 出演:ジュエル・エドガートン、キウェテル・イジョフォー、サラ=ジェーン・ポッツ他

ノーサンプトンにあるプライス社は4代続く伝統ある靴工場だ。社長も社員も会社と仕事に誇りを持ち、家族のように仲良くやっていた。そんな工場の跡取りであるチャーリーは自分にも仕事にも自信が持てずにいた。そんな時、都会志向の婚約者ニックがロンドンへ転勤することになり、彼も市場調査という名目でそれに同行することにした。

憧れの都会での二人の新生活に喜ぶニックだったが、そんな矢先にチャーリーに父の訃報が届く。故郷へ取って返したチャーリーは否も応もなく新社長になり、社長業務を行うことになる。が、もちろん彼は、実力と経験があり社長としても人間としても社員に尊敬されていた亡き父のようにはできない。戸惑い悩みながらも業務をこなそうとしたチャーリーだったが、そこに工場が大量の在庫を抱え倒産寸前だったことが発覚する。チャーリーは少しでも在庫を捌こうとロンドンへ戻るが状況は思わしくない。ニックは彼が工場を継がなくていいのを喜んでいるようだが、実は家業を愛し誇りに思っていたチャーリーはそれについても複雑な気持ちだった。

思い悩み一人慣れない酒場で飲んだ帰り道、チャーリーは女性が数人の男達に絡まれているのを目撃し、果敢にも助けようとするが早々にのされる始末。そして、薄れ行く意識の中で、絡まれていた女性が男どもを叩きのめすの意外な風景を目撃した。そして、意識を取り戻したチャーリーは意外なものを目撃する。舞台裏のような場所で鏡に向かう不思議な人物。実は彼が助けようとした女性はドラァグクイーンだったのだ。ローラと名乗る彼女=彼は助けてくれようとした上に、事実を知っても差別的でないチャーリーに好感を持ち自分のステージに招待する。チャーリーは初めて見るドラァグクイーンのステージに感嘆し、その独特の衣装のブーツに興味を持つ。いくら女性らしく装っても男性の骨格に生まれついているドラァグクイーンは、女性用のピンヒールのロングブーツが体に合わないのだ。先祖代々の靴屋であるチャーリーはそれに気付き何とかしてやりたいと思う。

工場に戻ったチャーリーは経営を立て直すために、まず人員削減に着手する。突然のことで悲嘆と非難が渦巻く中、解雇面談を敢行するチャーリーだったが、解雇対象のひとりであるローレンが言った台詞にはっとする。何をすべきかと考えること、そしてニッチ市場を開拓すること。ここに先日来の気がかりだったドラァグクイーンのブーツが結びついて、チャーリーの方針は固まった。紳士靴はやめてドラァグクイーンのブーツを作るんだ!チャーリーは早速ローラに連絡を取りアドバイスを依頼する。しかし、熱くなる二人に対して周囲の反応は冷ややかだった。何しろノーサンプトンの人間たちにはこのブーツの意味もローラが何者かもわからないのだ。そして、ローラが何者かがわかる人々は差別的な目を向けてくる。

社員たちとのいさかいやローラとチャーリー間での行き違いや感情的なもつれ、そしてニックの裏切りなど数々のトラブルが起こる中、決して諦めようとしないチャーリーとそれに協力するローラとローレンの熱意は工場の人々にも徐々に伝わってくる。そして、全員の協力で、とうとう求めていた究極のブーツができた。


「 田舎とドラァグクイーンという意外な取り合わせで人情話 」って凄くベタな感じで好きじゃないなぁと思ったのですが、実話が基だというのでレンタルしてみました。そしたら、これが意外にもなかなか良い映画でした。まぁ、ベタなことはベタで展開も読めるんですが、気に障る感じではなく安心して見られる感じなんです。主人公もローラ=サイモンも常に迷いがあって、ヒーローにもヒロインにもなり切れない中途半端な感じがリアルで逆によかったのかも。しかし、主人公はちょっと魅力に乏し過ぎる気がするけど…。外見がキュートなわけでもないし。

※以下ネタバレ有り※

特にミラノのショーの前に八つ当たり気味にローラを=サイモンを非難するチャーリーは最低ですね。この主人公は何故か後半に行くにつれ魅力を無くしていくんですよねぇ。ちゃんと説明せずに社員にダメ出しばっかりするのもよくないし、キンキーブーツを履いて自らステージに立つシーンを作中のローレンは評価してるけど、あれは自業自得だし、そもそも全く役に立ってない(実際、ステージに出たものの立ててないからな…)し。あれは引き立て役にも場つなぎにもなってないと思うが。

最初の方で工場を立て直そうと奮闘するところはなかなかいいし、多勢に無勢で腕に覚えがあるわけでもないのにチンピラに絡まれるローラを助けようとしたところはすこぶる高評価なんだけど。まぁ、いいところばかりでないリアルな人間像ということなのでしょうか。

とにかく、この映画は作中に時々入るローラのショーが効いてると思います。あれがないとローラは単なる服装倒錯者で、男性のナリをしてる時はオネエさんですもの。やっぱり、ショーがあってのドラァッグクイーンですよね^^ 自分の好きなことを自信を持ってやっている姿は素晴らしいものです。

ああ、そうそう、この映画って、「ゲイの映画」とか「オカマの映画」とかくくられているようだけど、そうではなくて、あくまでも「ドラァグクイーンの映画」もしくは「服装倒錯の男性の映画」です。ここのところは間違わないで頂きたいですね。ローラが時々サイモンになってオネェ言葉で話したりするから、「オカマ」という誤解が生じるのはムリもないだろうが「ゲイ」部分は全くないですから(ローラの性的嗜好は明らかじゃないけど少なくとも作中で描出されてない)。こういう言葉は正しく使って頂きたいものです。(※)

しかし、人は何故ロングブーツやハイヒールや赤い革やエナメルに惹かれるのでしょうか? (黒い革やエナメルもいいですよね^^;)

作中でローラが言うように「 =セックス 」だとまでは思わないけど、官能を刺激するところは確かにあるような気はします。まぁ、そういう理屈はおいといても私もキンキーブーツ履いてみたいなぁ^^;

ちなみに、「 キンキーブーツ 」とは「kinky boots」で、直訳すると 「 変態のブーツ 」ってなっちゃうんですが、それはあんまりですよね…。当事者が敢えて使うのはアリでしょうけど。そうでない人向けの言葉はないのかしら?

(10月鑑賞分)

-------------------------------

※ 言いっ放しも何なので、ここに挙げているコトバの語義を以下に説明したいと思います。

  ただ、非常に複雑な世界である上に、私は聞きかじりの知識があるだけの門外漢なの

  で、細かいところで誤っていることがあるかもしれません。その場合はご容赦下さい。

  もし、間違いに気付いた場合はお知らせ頂ければ幸いです m(_ _)m

 【 ゲイ 】

  男性同性愛者のこと。

  「ホモ」または「ホモセクシュアル」も同義であるが、差別的で不適切な表現とみなす

  同性愛者が多いため近年ではあまり使われない。

  女性同性愛者をゲイと言うこともあるが日本では稀。英語圏では同性愛者は性別を

  問わずゲイと称するようだ。

 【 オカマ 】

  調理器具や、自動車事故および性行為の一形態を指し示す以外で使われている

  場合は、正式な用語というよりは俗語、蔑称の類。従って語義もあいまいだが、

  主として女性的な 部分が通常より多く見られる男性全般のことを指す。

  性自認のあり方や性的嗜好や服装倒錯の有無に関わらず使われる乱暴な言葉で、

  言葉遣いや立ち居振る舞いがやわらかかったり風貌が女性的であるというだけでも、

  そう称されることが多い。

  近年では当事者が敢えて自称することも増えているが、それ以外では使われるべき

  ではない語だと思われる。

 【 ドラァグクイーン

  男性が女性用の派手なドレス(多くは露出過多なもの)やハイヒールなどで装い、

  厚化粧をし、誇張された女性的な振る舞いをすること。

  本来は男性の同性愛者もしくは両性愛者が行うことであったが、近年では性的嗜好

  関わり無く行われることも多い (服装倒錯の一環やパフォーマンスなど)。

  ちなみに、「 ドラァグ 」 は 「 drag (引きずる) 」で、通常のカタカナ英語発音表記だと

  「 ドラッグ 」であるが、違法薬物を指す「 drug 」と混同されないように業界ではこのように

  表記するらしい。

 【 服装倒錯 】

  自分の性別とは異なる装いをしたいという欲望をもつこと。女装趣味、男装趣味。

  欲望のあり方は非常に複雑で、単純に異性の服装を好むという者もいれば、変身願望

  からそうする者もいるし、それが性的興奮に結びつく人もいる (この結びつきかたも

  実に様々なのだが、煩雑になるので割愛)。

  ただし、性同一性障害をもつ人が、自分の戸籍上の性別と異なる性の服装をするのは

  これには当たらない。